『光が死んだ夏』はBL作品？原作との違いからジャンルを徹底考察

「光が死んだ夏」をBL作品だと片付けたい人もいるけれど、実際にはどうなのか気になっていませんか？

本作は作者モクモクれんが「青春サスペンスホラー」「クィア寄りのホラー」として宣言しており、明確なBL（ボーイズラブ）分類はされていません。

それでも「ブロマンス的な余白」や「よしきの執着的感情」が読者に深い印象を与えており、「BLか否か？」の論争は続いています。本記事ではジャンル定義、原作のスタンス、読者解釈の視点から多角的に整理します。

結論：「光が死んだ夏」は公式にはBLではなく、青春サスペンスホラー

『光が死んだ夏』は、その絵柄や登場人物の関係性からBL作品に見える場面が多々あるものの、公式には「青春サスペンスホラー」ジャンルとして明言されています。

実際の描写は非常に繊細で、“恋愛とも友情とも言えない感情の交差”が表現されており、読者の受け取り方によってジャンル感が変わる構造を持っています。

だからこそ「BLっぽいけどBLじゃない」という議論が絶えず、多くの読者が深読みや考察に夢中になる、“余白のある”新感覚の物語だと言えるでしょう。

原作＆出版社が明言するジャンル設定

出版社KADOKAWAおよびWikipediaでは、『光が死んだ夏』のジャンルを「ホラー、サスペンス、ブロマンス」と明記しています。

このことから、BL（ボーイズラブ）としては公式には分類されていないことが分かります。

掲載サイト『ヤングエースUP』自体もBL専門誌ではなく、一般青年向け作品が中心のレーベルであり、ジャンルの整合性にも違和感はありません。

物語構造を見ても、恋愛関係の成立や性的描写といったBL的要素は排除されています。

むしろ本作は「人外との邂逅」「心の揺れ」「死と喪失」などの普遍的なテーマを内包した、広義の青春ダークファンタジーとして成立しています。

したがって、「BLではないのにBL的に見える」構造が魅力であり、本作の議論性や人気の要因とも言えるのです。

作者モクモクれんの発言から読み取るスタンス

モクモクれん氏は過去のインタビューにおいて、「ジャンルは意識していない」「読み手によって自由に解釈してもらいたい」と語っています。

実際、Pixivで公開された初期プロトタイプ版には「創作BL」タグが付けられており、商業化に伴ってBL要素を削ぎ落とした構成に移行された背景も明かされています。

つまり、BL的表現の名残は残しつつも、明確な恋愛関係には踏み込まない構成が本作の特徴であり、その“曖昧さ”こそが魅力となっています。

また、モクモクれん氏は「描いている自分でもジャンルを決めかねている」と述べ、意図的に余白や解釈の幅を持たせていることを認めています。

この姿勢が、BLとしても、ホラーとしても、ブロマンスとしても解釈可能な“可変的ジャンル”を成立させている要因でしょう。

「何ジャンルなのか分からずに描いている」とは、作者自身が語ったスタンスであり、それゆえの読解の自由さが話題性につながっている。

原作との違い：「BLの名残」はどこから？

現在の『光が死んだ夏』はホラー・サスペンス要素の強い商業漫画として知られていますが、その根底には“BL的な名残”が確かに存在します。

それは本作が生まれる前段階——Pixivで発表された創作BL作品としての原型にルーツがあります。

商業化にあたりジャンル転換が行われたという事実が、現在の曖昧なジャンル感に直結しているのです。

Pixiv掲載時は人外BLプロトタイプだった過去

『光が死んだ夏』の原型は、2021年初頭に作者モクモクれん氏がPixivに投稿した「人外×少年」の創作BL作品です。

この時点でははっきりとBLジャンルに属しており、「人外に乗っ取られた親友と少年の関係性」を恋愛感情として描写する構成でした。

ネット上で多くの反響を呼び、TwitterやPixivでシェアされるなかで、「BL作品としての完成度」や「異形との愛」のテーマ性が支持されていたのです。

この原作では、キスや愛の告白といった直接的な描写があったわけではないものの、キャラクターの心理描写が明確に“恋愛感情”として設計されていました。

そのため、現在の『光が死んだ夏』における「BL的に見える」という感覚は、この時代の名残が影響していると言っても過言ではありません。

Pixiv時代の『光が死んだ夏』には「創作BL」タグが明記されており、ジャンルとしての明確なBL作品だった。

商業化でBL要素が抑えられた経緯

モクモクれん氏が商業連載をスタートさせる際、編集部との相談のうえでジャンルを「ホラー・サスペンス・青春」に転換する方針が決定されました。

その結果、BL的な台詞や構図は曖昧に表現されるようになり、直接的な恋愛描写や性的な要素は排除されました。

作者本人も「何ジャンルか自分でも決めていない」と述べており、読者の解釈に委ねるスタイルが意図的に採用されています。

また、商業誌『ヤングエースUP』は青年向け一般誌であり、明確なBLコンテンツを含むには制限があります。

そのため、編集・演出・構図の段階で「BL的印象を保ちながらもジャンルとしてはブロマンス寄りにシフト」させる処理がなされました。

これは“BLファンも読めるし、苦手な人にも刺さる”という、両者にとって心地よいバランスを目指した商業戦略とも言えるでしょう。

その結果、現在の『光が死んだ夏』は、商業作品としての制約の中で、BL的な空気感を繊細に表現しつつも、ジャンルとしては明確にBLではないという独自の立ち位置を確立するに至ったのです。

読者が「BLっぽい」と感じる理由とは？

『光が死んだ夏』が「BLではない」と明言されているにもかかわらず、読者の多くが“BLっぽさ”を感じてしまう理由はどこにあるのでしょうか。

その核心には、登場人物同士の異常とも言える心理的な近さと、恋愛とも友情とも言い切れない“曖昧な関係性”の描写があります。

これは読者の共感や妄想を喚起しやすく、“BL的空気”を感じさせる構造として非常に巧妙に設計されているのです。

よしきとヒカルの心理的濃密さ

物語の中心を成すのは、よしきとヒカル（＝光ではない“ナニカ”）の異様なまでに濃密な精神的つながりです。

ヒカルはよしきに対して「めっちゃ好き」「俺以外を見なくていい」などと発言し、執着と依存の混ざった感情を見せます。

また、距離ゼロの会話や、夜中に隣で寝るような描写が何度も登場し、恋愛感情に近い印象を与えます。

一方、よしきの反応にも興味深い部分があり、ヒカルに対して赤面したり、戸惑う姿が描かれるなど、単なる親友とは思えない距離感が演出されています。

こうした描写の蓄積が、「BLでは？」という印象を読者に強く植え付けるのです。

心理的に近すぎる二人の距離が、結果として“恋愛的に見える構図”を生んでいる。

恋愛とも友情ともとれる曖昧な関係性の描写

『光が死んだ夏』の最大の特徴のひとつが、登場人物の感情が「恋愛か友情か分からないまま」描かれる点にあります。

例えば、よしきがヒカルに対して「ドキドキはしないけど特別だ」と語る場面は、恋愛と友情の中間にある感情を象徴的に表現しています。

また、ヒカルがよしきに触れられて「気持ちいい」と発言したり、目を潤ませて見つめるなど、読者に恋愛的な連想を誘導するシーンも少なくありません。

それでも物語上では恋人関係であるとは明言されず、“定義されない感情”として物語の中心に据えられているため、読者が自由に解釈できる“余白”が存在します。

この曖昧さが、BL好き読者の想像力を刺激し、二次創作や考察の土壌を豊かにしているのです。

恋愛とは断定されない関係性だからこそ、多くの読者が“これはBLだ”と感じてしまう余地がある。

他ジャンルとの重なり：「ホラー」「サスペンス」「青春」「ブロマンス」

『光が死んだ夏』はBLではないと明示されている一方で、多くのジャンル的要素が混在した多層構造の物語として評価されています。

ホラーやサスペンスとしての緊張感、青春物語としての痛み、そしてブロマンス的な関係性の美しさが絶妙に絡み合い、読み手の解釈をより深く多様に広げているのです。

ここでは各ジャンル軸ごとにその魅力を分析しながら、本作の構造的な豊かさを掘り下げていきます。

ホラー／サスペンス軸：“生者と死者の境界”を描く怖さ

本作の根底にあるのは、「人間に擬態した“ナニカ”と共に暮らす恐怖」という構図です。

親友だった光が山での失踪後に帰還し、その正体が「人外」であるとわかる展開は、“日常に忍び寄る異常”を描くホラーの王道に当たります。

また、誰にも言えない秘密を抱えながら過ごすよしきの心理的緊張が、サスペンスとしての魅力を増幅させています。

何が本物で何が偽物なのか、誰が真実を知っているのかという不穏な空気が全編に漂っており、常に“何かが起きそうな不安”が読者を引き込むのです。

ホラー演出も派手なショックではなく、じわじわと忍び寄る恐怖を強調した“Jホラー的感覚”が随所に感じられ、作品全体に深い陰影を与えています。

「死んだはずの光が帰ってきた」という設定そのものが、最初からホラーそのものの構造。

青春・喪失軸：田舎町で抱える痛みと成長

ホラーやサスペンスの裏で描かれているのが、よしきの内面にある“喪失と成長”の物語です。

よしきは親友を失い、その代替物と暮らすことを選びます。

田舎特有の閉塞感、周囲との関係、家庭や地域の空気といったリアルな背景が、彼の葛藤と感情にリアリティを与えています。

また、よしきはヒカルに対して常に心を開いているわけではなく、怒りや拒絶、そして再受容といった複雑な心の変化をたどります。

この過程は、青春期特有の“自我の形成”や“他者との境界”を描いた成長物語として読むことができます。

青春とは喪失と再生の物語。よしきの選択は、その縮図のように描かれている。

ブロマンス軸：読者が汲み取る“余白”の魅力

『光が死んだ夏』がBLではないにもかかわらずBL的に楽しまれている最大の理由は、“ブロマンス”としての美しさにあります。

ブロマンスとは恋愛ではないが、深い信頼と情愛に満ちた男性同士の関係を描くジャンルであり、本作はその典型とも言える構造を備えています。

たとえば、「めっちゃ好き」「俺以外は見なくていい」といったヒカルのセリフは、読者に恋愛感情を連想させながらも、恋とは断定されない絶妙なラインに位置しています。

この“恋と友情の間”にある感情を丁寧に描くことで、読者自身の想像力が物語を完成させていく構造になっているのです。

その“余白”がファンの考察熱や二次創作文化を支え、SNSなどでも長期的な話題を提供しています。

定義されない関係性だからこそ、そこに感情を見出したくなる。これがブロマンスの力。

原作とアニメ／小説化での表現差とジャンル感の変化

『光が死んだ夏』は原作漫画を基に、小説化およびアニメ化というメディア展開が進んでいます。

その中で、メディアごとの特性によって“ジャンル感”や“感情の深度”が変化している点に注目する読者が増えています。

ホラーの強調、心理描写の深化、視覚表現の鮮烈さといった変化が、作品の捉え方にどんな影響を与えているのでしょうか。

小説版（ノベライズ）で感情描写がどう昇華されたか

角川文庫より刊行されたノベライズ版『光が死んだ夏』は、額賀澪氏による文芸的な再解釈が施されており、原作漫画では描ききれなかった心理や情景を言語化しています。

とくに印象的なのが、よしきの内面の“感情の機微”に深く踏み込んでいる点で、ヒカルへの戸惑いや恐怖、同時に湧き上がる愛着のような感覚が繊細に描かれています。

小説という媒体の特性上、セリフの裏にある心の声や、空気感の描写が豊富になり、読者がより深く“何か分からない感情”に共感できるようになっています。

また、ホラーとしての“じわじわと迫る恐怖”の表現も静かに鋭く描かれ、読後に残る感触はむしろ文学に近い余韻があります。

ノベライズは、漫画では行間に隠れていた感情を“言葉”として掘り起こす役割を果たしている。

2025年放送中のアニメ化による視覚表現の影響

2025年7月より日本テレビ系列で放送が始まったアニメ版『光が死んだ夏』は、CygamesPictures制作による圧倒的なビジュアルと音響演出によって、大きな反響を呼んでいます。

特に第1話の段階から、ホラー色が原作以上に強調された構成で、「原作より怖い」と感じた視聴者も多数。

視覚・聴覚に訴えるアニメ表現では、“ヒカルが人外であることへの違和感”がより鮮明になり、ブロマンス的解釈よりもサスペンス的読後感が強まる傾向があります。

とはいえ、キャラクター同士の距離感や演出には“BL的に見える構図”が引き続き存在し、SNSでは「やっぱりBLっぽい」との声も少なくありません。

演出面では、カメラワークの使い方や、無音の間の取り方により、「言葉にできない感情」が強調され、結果として“解釈の余白”はアニメでも健在です。

アニメ版では、視覚によって「人間とは違う」という異物感が際立ち、ジャンルのホラー色がさらに浮き彫りになる。

まとめ：「光が死んだ夏」はBLではない──でもそこにある“余白”こそ本作の本質

ここまで見てきたように、『光が死んだ夏』は公式にはBL作品ではないことが明確であり、ジャンルとしては「青春サスペンスホラー」として定義されています。

しかし、読者が“BLっぽさ”を感じる理由には、よしきとヒカルの関係性の濃密さ、心理的な揺らぎ、描かれない感情の余白が大きく影響しているのです。

この余白があるからこそ、物語はより深く、多様に読み解かれる構造になっています。

作者モクモクれん氏自身が「ジャンルを定めていない」と公言しているように、『光が死んだ夏』は読者の解釈によって姿を変える“開かれた物語”です。

それはBLとして読むこともできるし、ホラーとしても、青春文学としても成立する構造であり、ジャンルの境界を曖昧にすること自体がこの作品の挑戦とも言えるでしょう。

“恋ではないけど、それに似た何か”。その言語化しきれない感情こそが、この作品の核。

読者のなかには、恋愛感情だと確信する人もいれば、共依存・執着・友情と読み解く人もいるでしょう。

このように、誰もが自分の解釈を持ち込める「余白」があるからこそ、本作は読み継がれ、語られ続けているのです。

つまり『光が死んだ夏』は、ジャンルではなく、感情の深度で読むべき作品なのだと私は感じています。